2022/01/29

新世界の音楽喫茶

 三島由紀夫の「百万円煎餅」は、今はもうない浅草の「新世界」という娯楽施設を舞台とする短編小説である。新世界はローラースケート場、音楽喫茶、キャバレー、温泉など様々な遊技場から構成されていた。その二階には音楽喫茶があり、バンドや歌手などが毎日出演していた。私の母は、当時この新世界で経理の仕事をしていて、仕事の後に多くのバンドの生演奏を楽しんでいたらしい。渡辺貞夫、森山加代子、ジョージ川口、東京マンボオーケストラなどの演奏を毎日、無料で聞くことができたというのだから、実にすばらしい話である。「ナベサダが売れなくてねー」が母の口癖で、当時まだ売れない頃の渡辺貞夫のサインも持っていた。

      
「百万円煎餅」は『花ざかりの森・憂国』(新潮文庫)に収録されていて、何十年も前に読んでいるはずだが、まったく記憶に残っていない。「憂国」の一つ前に配置されていて、不覚にもスルーした可能性はある。なお、「百万円煎餅」では件の音楽喫茶が後半に出てくるので、当時の音楽喫茶、さらに新世界という娯楽施設の雰囲気をあじわうことができる。

先ほど述べたように「新世界」には音楽喫茶以外のお店が多数存在していたことも興味深いし、また建物自体にも不思議な魅力があるので、建築関係のブログでまとまったことを書いてみたいと思う。